【星 一】 「三十年後」




SFショートショート作家の星新一の父、星一氏によるSF小説「三十年後」を読みました。

刊行から97年後の今年、星一の出身地である、いわき市の草野心平記念文学館で「星新一・星一展」がひらかれるのを記念して復刊されました。

三十年後 (ホシヅル文庫)
by カエレバ

星一氏は、福島県いわき市出身。星製薬・星薬科大学の創立者です。

コロンビア大学で修士号を取得後、星製薬を設立。「ホシ胃腸薬」を大ヒットさせたほか、国産モルヒネの生産にはじめて成功、東洋一の製薬会社となりました。
衆議院選挙に3回当選、参議院選挙にも1回当選(昭和22年、全国区得票1位)、政治家としても活躍したという人物です。

SFショートショート作家の星新一の父、星一さんSF小説が復刊



本書は、星新一によって要約されて、原作の半分ほどになっていますが、ストーリーは示唆に富んだ内容となっています。

大正37年に、浦島太郎よろしく30年ぶりに日本に戻ってきた嶋浦翁が、その変化の急激さに驚き、しかし徐々に慣れてきて・・・、というお話です。

港での出迎え風景ではカメラマンはおらず、本部でLIVE中継を見ながら写真を撮る、というようなことが書かれています。
いきなり、これって今だよね、と感じます。

また、念写版というものを使うと、頭でイメージしただけで、手書き文字で瞬時に何万枚もの印刷物が作れる、という場面も出てきます。

念写、というところがどうかな、とは思いますが、大正7年当時に書かれたものですから、現在の電子メールのようなものを想像していただけでもすごいと思います。

ちなみに大正7年は、髙橋是清の人生から見ると、原内閣で2度目の蔵相となったときでした。
軍部からの圧力で軍事予算要求が強まり、実際、軍事予算が増大しつつある時代です。

当時、星一は政治家だったので、そういう風潮に対するアンチテーゼとして、この小説を誕生させたのかもしれません。
また、星製薬を登場させたり、自画自賛したり、というある種のPRとしての小説でもあります。


星新一ファンならずとも、SF好きな方には、一度手に取っていただきたい作品です。

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