【宇山 卓栄】 「経済を読み解くための宗教史」



経済を読み解くための宗教史」読了。

著者は、代々木ゼミナールで世界史を教えている方。

個人投資家、ともあったので、手に取ったのですが、なんというか、受験対策的な宗教のお話、という印象です。

しかも帯にはこうあります。

「リーマンショック」も「ピケティ」も神の教えから生まれた!

まったく関係がない、とは言いませんが、これは言い過ぎ、過大広告です。


本書は、宗教について、まったくご存知のない方や、世界史における宗教の影響などについてご存知のないかたにとっての、入門書的な内容です。

決してリーマンショックに関する宗教的な考察が書かれているわけではありません。


経済を読み解くための宗教史

宇山 卓栄 KADOKAWA 2015-11-20
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とはいえ、評価できるところもあります。

その存在は知っていても、詳しく知らないヒンズー教やイスラム教、儒教に関する、成立の歴史、その教義などについて細かく解説していることです。

また、キリスト教におけるカトリックとプロテスタント、ピューリタンの成立過程など、現代の資本主義形成の根幹をなすであろう宗教観についても、教科書的に解説してくれます。

特に、キリスト教の果たした役割、すなわち聖職者が世俗をも管理し、税徴収まで行っていたことなど、学校ではなかなか教えてくれないレベルまで教えてくれます。


宗教が経済や政治に影響を及ぼしている、ということは、現在「イスラム国(IS)」の存在によって、知ることができます。

彼らが、原理主義的イスラム教を盾に、貧困層を教化し、テロを起こしています。

貧困こそがテロの温床、というのは、どの宗教においても言えることですが、「宗教は麻薬」として禁じたソ連や中国では、時の権力者による大量虐殺や、政策の失敗による大量餓死もあるので、宗教史の側面として、ソ連や中国の例も、盛り込んでほしいところです。


また、本書のなかでもちょっとだけ触れられていますが、近代以降の経済発展は「政教分離」が基本です。

イスラム教は、基本的に政教一致、であるために経済発展しにくい、というわけです。

しかし、トルコは政教分離をいち早く(1923年)行っています。
初代大統領に就任した建国の父、ケマル・アタテュルクの「トルコ革命」によって、トルコはほかのイスラム世界とは一線を画す独自の国家路線を歩み始めます。
アタテュルクは、宗教と政治を分離しなければトルコの発展はないと考え、国家の根幹となる原理として政教分離(世俗主義)を断行。
憲法からイスラム教を国教とする条文を削除し、トルコ語にはアラビア文字に替わって、アルファベットを当てました(ラテン・アルファベットで表せないものは独自に作成)。
また、一夫多妻制を禁止し、1934年には女性の参政権を実現させました。日本の「明治維新」にもどこか通じるこうした改革は、古くからヨーロッパの一部としての歴史も受け継ぐトルコだからこそ、可能だったと考えられています。


宗教が民衆に与える影響を熟知しなければ、アタテュルクのような決断はできないと思います。



最近のイスラム世界では、イスラム教に定められた政教一致を目指す政権も現れており、貧困層の支持を得ながらも、経済的なうまみは権力層が掌握する、という方向に進みかねない状況にもなっています。


真実かどうかはわかりませんが、こんな情報も流れています。

石油をアサド政権に売却 「イスラム国」(IS)米高官指摘
http://www.sankei.com/world/news/151211/wor1512110021-n1.html




これによると、過激派組織「イスラム国」(IS)が石油取引で月に約4千万ドル(約49億円)を稼いでいる、のだとか。

別の情報では、アサド大統領だったか、エルドゥアン大統領だかの親族が経営する企業を通じて、これらの石油が日本をはじめとする先進国に安価な価格で流れている、とも言われています。

最近の原油安に、「イスラム国」が関係している、というわけです。


多神教で、宗教に興味のない日本人には理解にしくいことですが、宗教は日常生活を規定し、人間の価値観となっています。

一神教の世界では、すべては神の思し召し、神から required(要求された、必要とされた)ことが、服装や生活習慣となっています。


個々の宗教のことを教科書的に知ることも重要ですが、日本人と、一神教の国の人たちの違い、といった世俗的なことを、宗教史の観点から解説してほしかったです。

久しぶりに、これは高いな、失敗したな、と感じた一冊でした。


ユダヤ教徒キリスト教に関する著作では、こちらがおススメです。

【池澤 夏樹】 「ぼくたちが聖書について知りたかったこと」

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