【三島 由紀夫】 「命売ります」



三島作品は戯曲以外はほぼ読破していると思っていたら、書店で未読の「命売ります (ちくま文庫)」を発見して、読了。

読破したのは新潮文庫だったので、ちくま文庫だから読んでないか、と手に取りました。


本書は、三島の代表作ではありませんが、当時の風潮や風俗が描かれている点で、非常に三島的な作品です。

たとえば主人公の職業は、広告代理店に勤めるコピーライター。
しかし突然、自殺を思い立ち自殺するのですが、失敗してしまいます。

そして、自分の命を売りに出す、という突拍子もないビジネスを始めます。


命売ります (ちくま文庫)

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ストーリーは、命を売りに出した羽二男が、様々な事件に巻き込まれ、ついには死を恐れるようになる、というもの。

事件も一筋縄なものではなく、国際的なスパイ事件だったり、江戸川乱歩ばりの吸血事件であったりします。

読んでいて、星新一の父、星 一の「三十年後」にも通じるような、ある意味荒唐無稽な技術が登場してきます。


羽二男が、スパイ一味に狙われ、脚に何かを撃ち込まれます。
これが、羽二男の居場所を特定できるという発信機。

20年前なら、疑問もなく、不自然さも感じなかったであろう発信機というものですが、GPSを知り、電波の受発信ができる基地局があちこちにないと、発信機は機能しないのだ、と分かっている現在では、電波を発信できたところで受信しなけりゃダメじゃん、と思ってしまうのです。

この小説が書かれた当時の技術で発信された電波を受信するとなると、結局、羽二男のそばにスパイはいるはずだろうし・・・。

となると、発信機は必要ないよね、などとツッコミながら、読んでしまいました。


また、前後関係から見て、少し唐突な記載があります。

彼の空想裡できわめて重要だと思われたこの儀式は、日本の政治経済すべてにとっても重要なものに違いなかった。つまり、一国の閣議はそうしてはじまるべきだったし、安保条約問題もそうして解決されるべきだった。一匹の高慢ちきな猫の、思いもかけぬ譜面目によって、われわれは、猫を飼っているということの意味を、よくよく知ることができるのだ。

初出は昭和43年というのですから、1968年、三島が割腹自殺する2年前の作品です。

この文章には、三島の考えが書かれているように思うのです。

猫がアメリカを指しているのか、当時の日本政府を指しているのか、どちらかはわかりませんが、この数行が、私にはひっかかりました。


そもそも、三島作品を読むようになったきっかけは、三島の割腹自殺でした。
バルコニーで演説する映像は、印象的なものであったとともに、非常に奇妙だったからです。

三島由紀夫という作家が、どんな考え、どんな生き方をしたのか、それを作品から知りたいと思いました。高校生の頃です。


割腹自殺から45年めの今年、書店では、三島作品が平積みされているのを目にします。
これも読め、と示されたように思いました。

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