【星野 智幸】呪文


呪文」読了。

タイトルはホラーかと思わせるのに、廃れていく商店街が舞台の物語。

帯には「現代日本の悪夢」とあり、おもわず手に取りました。


呪文

星野 智幸 河出書房新社 2015-09-11
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少しずつ空き店舗が増え、落ちぶれていく商店街というのは、それこそ日本中にあると思います。

国や自治体も歯が抜けるようになっている商店街を問題視していて、補助金や助成金という形で、
  • 商店街・小売市場の空き店舗への新規出店
  • 地域コミュニティ施設の設置
  • 商店街等に必要な業種を誘致する取組み
  • 商店街活性化プランに基づく事業承継

といったことを支援しています。

【兵庫】商店街新規出店・開業等支援事業助成金 より。


それこそ、あの手この手で、商店街を活性化しよう、という取り組みが、日本全国で行われているのです。


そんな商店街に、外部からやってきた人間が居酒屋を開店し、地元の有力者の娘と結婚。商店組合の事務局長となります。

しかしその男は、実は裏で良からぬことを画策し、とんでもないことをやっていたのでした。


これ以上書いてしまうと面白くなくなってしまうので、気になった部分をいくつか紹介しておきます。

あからさまな営業妨害を受けた店主が、自らのブログで反撃する場面で。
日本のお店は、お客様にめっぽう弱い。(中略)お詫びともとれるような卑屈な態度でやり過ごそうとする。
だから、つけあがるのです。クレーマーを許すからエスカレートするし、クレーマーが増えるのです。
ストレスが飽和して苛立ち、今すぐ誰がを叩きのめしたいという衝動に駆られている人たちは、潜在的にたくさんいることでしょう。店員だとか駅員だとかであれば、叩いても反撃してくることはなく、ことを無難に収めようと小さくなるばかりなものだから、叩きやすい。
(中略)
なっちゃいない店員や駅員をガツンと教育してやるだけだから、むしろ善行だ、という意識が、普通の人々の間に浸透していくのです。
これ、あるかもですね。
最近、駅ナカに、駅員への暴力は犯罪、というポスターが貼ってあります。
自分ががんばるという意識の弱い人、孤独に弱い人は、耐えられなくなると、すぐに弱音を吐きます。うまくいかないことを、人のせいにするんです。自分は被害者だからつらいのだ、と訴え始めます。
つらいからって、関係のない人を貶めるような暴力はいけません。


というような正論を次々を吐いていく組合事務局長が、裏の組織をつくり、ひそかに「失格住民」を退去させるのです。

しかも、この裏の組織では、「クズ道とは死ぬことと見つけたり」と言わせて、失格住民の脅しに、彼ら組織の一人一人に、割腹自殺未遂をさせます。

つまり、表の商店組合は組合で、安心安全な商店街を目指して集客しよう!というスローガン(つまり呪文?)を掲げながらも、店舗の自由な売買を禁じたり、業務内容を商店街に合わせて変更させる、といった組合規則を作ってしまうのです。


裏の組織は、これはもう洗脳です。
身体的暴力に加え、精神的暴力など、これはかつて学生運動時代にあったリンチじゃないの?と思わせるような場面もあります。

しかし、この裏の組織(クズ道の方々)のなかに、割腹自殺を自らの意志で行おうとする者たちが表れて、表の商店街の活動にも暗雲が・・・・。


とにかく、時代を喝破する、示唆に富んだ小説です。

テンポが速いので、どんどん読み進めることができます。


商店街の活性化、というのは簡単ですが、ノウハウに関しては、実際のところ、たまたま成功した事例を紹介する程度。

初期投資を少なくするための補助金や助成金もありますが、1年ももたずに店を閉める、という事例は枚挙にいとまがないでしょう。

この小説のように、何をやってもいいから集客だ、活性化するのだ、という意思を持った人物が登場しなければ無理なのかもしれません。


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