【エマニュエル・トッド】 「問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論」



フランスの歴史人口学者・家族人類学者 エマニュエル・トッド氏の「問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論」読了。


問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論 (文春新書)

エマニュエル・トッド 文藝春秋 2016-09-21
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シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧」で、英国のEU離脱を予見していた方のもの。

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧」は、学者さんが書いた長い学術論文だったので、わからないことだらけで読み終わるまで時間もかかり、苦しみました。

しかし本作は、対談や講演録、または小論文的な寄稿を集めたものなので、読みやすく、わかりやすいです。


なにより、エマニュエル・トッドという学者さんが、どんな興味で研究しているのか、未来を予見することができる源泉は何なのか?がわかります。

もし、「シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧」を読みたいと思っている方がいるなら、まずは本作を読んでみてください。


ドイツ主導のEUにNO!といった英国


本書のなかで、ドイツ主導のEUに対して、英国は国家としての独立性を求めたのだ、と指摘されています。

EUが一体化することによって、各国政府の上位にEUが君臨し、自由な国政を行うことができなくなっており、英国は英国議会の主権回復を求めたのです。

また、ドイツは急速に不安定化していて、そのドイツ主導のヨーロッパこそが、世界的な経済不況の原因であるとも指摘しています。

当然ですが、EUは瓦解するであろう、とも。

このような指摘を読むと、通貨までひとつにしてしまったEUは、過度なEPAであったことがわかります。イギリスはポンドを堅持していたので脱退を決意することも、比較的容易であったといわれています。

※経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、2以上の国(又は地域)の間で、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)の要素(物品及びサービス貿易の自由化)に加え、貿易以外の分野、例えば人の移動や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定をいいます。


グローバリゼーション終焉のはじまり


英・サッチャー首相と米・レーガン大統領にはじまる経済のグローバリゼーションの終焉が、英国のEU離脱である、と著者は書いています。

先進国にはグローバリゼーションに対する疲労があり、その結果、内向き志向になっていると指摘します。

そのような視点でみれば、トランプ大統領の実現もありえないわけではない。

クリントン=グローバリゼーション堅持派
トランプ=国内見直し派

先進各国が内向き志向になっていることから、歴史的に移民が多いヨーロッパでは移民排斥・ユダヤ排斥といった傾向に動き始めています。

日本国内でのヘイトスピーチも、同じような文脈で語ることができるでしょう。


なぜグローバリゼーションは疲労をもたらすのか?


著者は、グローバリゼーションによって先進国の若者の未就労率が高い反面、高齢な既得権者が現状維持を求めるため、イノベーションが起こりにくくなっていると「シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧」のなかでも指摘しています。

変化が起こりにくい社会が、若者にとって抑圧的なことは理解できるでしょう。
若者が活躍できない社会。

自国の若者のかわりに、賃金の安い国の労働者を雇用することを求めるグローバリゼーションが、国内の経済活動から活気を失わさせているということでしょうか。

このあたりは、NHKの「NHKスペシャル マネー・ワールド 資本主義の未来」でくわしく取材されているので、ご興味のあるかたはご覧ください。
わかりやすくまとめられています。


個人主義は国家を必要とし、家族主義は国家の必要性を感じない


家族人類学者でもある著者の指摘はユニークです。

イギリスやアメリカに代表されるアングロサクソンは「絶対核家族」であるため個人の自由を求める個人主義。

日本やドイツは「直系家族」であるため権威主義的。上の者の言動に従順な社会。

「絶対核家族」の最終形態は独居、つまり一人暮らし世帯の増加です。

この10年で日本でも独居世帯が増加していますが、著者によると、日本は「直系家族」から「絶対核家族」へ変化しているようです。
そしてこれも、グローバリゼーションの影響のようです。

「絶対核家族」というのは、著者の研究によると原始的な家族形態であって、「直系家族」はその進化形だそうです。

「直系家族」では、家族が寄り添いながら協力・援助関係を構築するため、国家の出番が少ないのに対し、「絶対核家族」は独居老人が発生しやすいので福祉など国家の役割が不可欠な社会なのです。

急激に「絶対核家族」化している日本の抱える問題は、過去との決別でもあるのかもしれません。


出生率と大学進学率によって国家の将来は予見できる


出生率の低下は日本にとって最大の危機・リスクですが、同じように出生率が急速に低下している国のひとつにサウジアラビアがあるそうです。

かつて6人だった出生率は3人にまで減少。
これは社会が不安定になっていることを示しているのだそうです。

日本と同じように低いドイツでは、移民を積極的に、しかも急速に迎え入れて単純労働者・若年労働者を増やしています。
経済力の低下を防ぎ、EUでの支配力強化のためには移民は不可欠なのですが、ドイツ社会と移民との融合はうまくいっているとはいいがたく、急速に不安定化していると著者は指摘します。

国家の将来は、家族構成と出生率、高等教育進学率の変化で予見できるのです。

著者によると、安定化に向っているのはアメリカとロシア。

不安定化しているのはドイツ、中国、サウジアラビア。

日本は、アメリカ・ロシアをパートナーにして、イラン・中国との関係をうまく構築するべき、と書いています。


日本人にはない視点


著者はヨーロッパ人です。
ユダヤにルーツをもつフランス人ですが、イギリス系でもある。

さかのぼれば、ヨーロッパ各国にそのルーツを求めることができるヨーロッパ人なのです。

そんな著者だからこそ、見ることができる世界がある。
それが本書ではないでしょうか。

日本人はそもそも内向き志向です。

内向きの心地よさを重視する国民性のため、異質なものを排除するパワーが強い。
よって、極端な行動にも出やすい。

わたしは、大学進学率が50%にもなる国の民として、著者のような複眼を持ちたい、と感じました。



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