【一田和樹 江添佳代子】「犯罪『事前』捜査」 知られざる米国警察当局の技術




犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術」読了。

サイバーミステリを手掛ける一田和樹さんの最新作は、インターネットのなかでどんな捜査が行われているのか、を事例をあげて明らかにしたもの。

フィクションであっても査読を行っている、一田作品の裏付け情報を明らかにしたもの、とも言えそうです。

共著者の江添さんは、わたしもよく知っている方ヽ(^o^)丿
ふふふ。

犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術 (角川新書)

一田和樹,江添 佳代子 KADOKAWA 2017-08-10
売り上げランキング : 21668
by ヨメレバ


4つの捜査事例が語るネット時代の犯罪抑止とは?

ボルチモアの暴動で明らかになった最新捜査技術

ボルチモアの暴動とは、黒人への人種差別を原因とするものです。
日本では暴動がほとんど発生しないため、海外ニュースで暴動の様子を見ると「なぜ、そこまでやる?」と思ってしまう方も多いようですが、小規模のニュースにならない暴動も含めれば、毎日どこかで暴動は起こっています。

その暴動の発生場所や時間を特定し、警察が事前に対策ができるようにしたのが、このボルチモアの暴動です。

Facebook、Twitterなど、SNSへの投稿を収集して分析し、暴徒を監視するようなマップを作成して、危険地帯の警察署に電子メールでメモを送ったというのです。

しかも、SNSの分析ツールは民間企業が提供しているものであり、暴動の激化に際して、警察宛に営業メールを送っていました。

日本でならマーケティングに利用するであろう分析ツールを、警察捜査に利用していることが、ここでは詳しく紹介されています。

しかも、ドローンを使って撮影した画像データが犯罪者の割り出しなどに利用されてもいます。

SNSを監視し、ドローンで画像データを集め、犯罪を抑止する社会がアメリカでは到来しているのです。


携帯電話の基地局になりすます「モバイル監視」の捜査とは

読んでいて、これが一番の衝撃でした。

携帯電話は、もっとも近くにある電波の強い基地局とつながろうとします。
この特性を利用して、基地局になりすまし、携帯電話を盗聴する「スティングレイ」を捜査に利用しているというのです。

しかも携帯電話には固有のIDがあり、どこの誰が利用しているものかは契約情報と付け合わせをすれば一目瞭然なのです。

渋谷のスクランブル交差点でスティングレイを動作させれば、交差点周辺の人が持っている携帯電話のIDを集めることができます。

さらに、盗聴することもできます。
本当の基地局と携帯電話の間にスティングレイが割り込んで、すべての情報を取得する=盗聴する、のです。

さらに、一度取得したIDの携帯電話の位置を割り出すこともできるのです。

そして、このステイングレイも企業が利益目的に開発したツールなのです。

アメリカでは20年以上も前からスティングレイが使用されていたということが、最近になって明らかになりましたが、その存在を暴いたのが「社会のあらゆるシステムを信用できない」詐欺師だったのです。


最強の盗聴組織とやられっぱなしのSNS

ここではSNSをつかった世論操作について語られています。
大統領選での世論操作をロシアが行った、というアレです。

フェイクニュースが流され、複数のアカウントがこれを拡散することで、内部崩壊へと導くというもので、情報テロです。

第2次世界大戦で、歴史上はじめて情報戦が有効であることが証明されましたが、インターネットが普及し、世界中の人が利用している現在では、低コストでできる情報操作として、とくにロシアや中国が力を入れています。

そしてもちろん、ISISのようなテロ集団も。

しかもこの分野ではAI(人工知能)のアカウントが、ツイートしたり、投稿したりします。
もはや人間は関与せずとも、情報操作ができ、世論をかく乱し、国家を内部から崩壊させることが可能となってきていることがわかります。

一田さんの「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」でも、AIが個人アカウントとして最適なコメントを投稿するということが描かれています。

ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略 (星海社FICTIONS)

一田 和樹,Niy 講談社 2017-07-15
売り上げランキング : 266609
by ヨメレバ

そして、見方を変えれば、アメリカが世界中で行っている「民主主義はステキ、資本主義は最高」というもの情報操作であって、ロシアや中国でこんな思想が蔓延したら、それこそ内部崩壊することになります。

さらには、表現の自由がある以上、どのような発言・コメントも、本来は止めることができないという問題点をはらんでいるのです。


ダークウェブの児童虐待サイトに捜査のメスを入れることは可能か?

秘匿されたネットワークにあるダークウェブの児童虐待サイト(児童ポルノサイト)が摘発され、数百人におよぶユーザーが摘発された事件について、ここでは解説されています。

ダークウェブそのものについては、マスメディアでも多少は取り上げられているので、知っている方も多いと思います。

ここで行われている犯罪行為の捜査では、FBIがサイト運営者としてエサをばらまいていた、というのです。

そして、これを良しとするのかどうか、裁判では争われている(現在進行形)のです。


プライバシーの侵害と犯罪「事前」捜査

これらの捜査手法が問題視されているのは、次のような点です。

  • プライバシーの侵害
  • 裁判における証拠能力の有無

一般人の情報ものぞかれている

プライバシーの侵害という点では、犯罪者だけではなく、ごく普通の一般人の個人情報まで、勝手に監視され、盗聴されているという事実です。

スティングレイの場合には、携帯電話に収められている情報はすべて読み取られてしまうため、これを利用するオペレーターが聖人でもなければ、ろくなことにならないという主張ができます。

しかし一方で、犯罪が抑止されるのであれば、個人情報が勝手に読み取られても仕方がない、と考える人もいるというのも事実。

ずいぶん昔になりますが、オウム真理教の捜査では「Nシステム」という通過する車のナンバーを記録するシステムが活躍しました。

この「Nシステム」は、オウム真理教の事件捜査で成果が上がる前は、プライバシー侵害であるとしてメディアをあげて批判があがっていた代物です。

しかし、捜査に役立つとされてからは、プライバシー侵害を指摘する勢力はいなくなってしまいました。


情報取得方法を未開示のまま証拠として良いのか?

もうひとつの問題点は、情報の取得方法が未開示であったり、勝手に盗聴したりしたものを裁判で証拠としてよいのか、という点があります。

これは、極端な場合、でっちあげ(適当に情報をつなぎ合わせて)られた情報が証拠となってもおかしくないことを示しています。

しかし、取得方法を開示しないことにも理由はあります。
仕組みを公開してしまったら、これを悪用する人がでてくるからです。
だから公開できない。

これを良しとしてよいのかどうか、法的な整備がないままに進行していることが問題だ、と本書では指摘しています。



サイバー空間は戦争状態にある。
犯罪抑止は事前捜査(監視)が効果的である。

という認識をもって行動する、アメリカをはじめとする国家が増えてきていることは間違いなさそうです。

そして、インターネットはすべてつながっていることを考えれば、日本だから大丈夫とはなりません。
わたしたち利用者には、「監視されるかもしれない」という心構えが必要なようです。


<関連の投稿>
【一田 和樹】「御社のデータが流出しています: 吹鳴寺籐子のセキュリティチェック」
【一田 和樹】 「原発サイバートラップ リアンクール・ランデブー」
【一田 和樹】 「サイバー戦争の犬たち」