【荒俣 宏】「風水先生『四門の謎』を解く」





荒俣 宏さんの「風水先生「四門の謎」を解く」読了。
20年近く前に取材・執筆されたものです。

風水のことがわかる本を探していてたどり着いたので、購入してみました。
荒俣ワールド全開ではありますが、興味深い記述が多く、さすが!と思うところが多々あります。

風水先生「四門の謎」を解く

荒俣 宏 世界文化社 2000-01
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by ヨメレバ


四門とは?

まずタイトルにもある「四門」とは、いったい何のことでしょうか。
簡単に書いてしまうと、日本を鎮護するための4つの門のことで、東西南北の方位を守るもののことです。

その4つの門が、常陸の国(現在の茨城県)から奥州、対馬、小笠原諸島、沖縄にある、ということを、丹念な取材のもとに書かれたのが、本書「風水先生「四門の謎」を解く」なのです。

そもそも「門」という漢字は、戸という字が2つ向かい合っている形。
門とは、両開き・観音開きの戸を表しています。

中国では、門は神の住まいを守るものとされており、そこから、神に「問い」かけたり、「聞いて」もらったりする場所=門の前、なので門がまえがついているのだそうです。

しかも、中国をはじめとする東アジアでは、東西南北の方位をとても大切にしています。
なぜなら、中国では、東西南北に言葉の通じない蛮族が存在しており、これらの脅威と戦うことが常だったからです。

東北の方位が鬼門とされるのも、中国の東北地方には常に異民族の脅威があったからだと考えられています。

この考え方を、日本のヤマト政権に当てはめたとき、東西南北の脅威とは何か?そしてそれを封じるための門はどこにあるのか?

これを明らかにしようというのが「風水先生「四門の謎」を解く」なのです。


第1章 北門ー東北

この章では、鹿島神社(東茨城郡桂村)にご神宝として伝わっている「悪路王頭形(あくろおうとうけい)」が、北門の封印が行われた遺物であると紹介しています。



この「悪路王頭形」とは、鹿島神宮にも別の形で残されている、蝦夷の王・阿弖流為(アテルイ)が斬首されたときの首を、できるだけリアルに作った頭形だろうと推測しています。

しかも、水戸藩2代藩主・光圀(黄門さま)、8代藩主・斉修も補修しているという遺物なのです。
そして、本来は悪路王のミイラが安置されていたのですが、水戸藩成立以前の殿様が調査のために持ち帰り、代わりに頭形が残されたという伝承があるというのです。

蝦夷討伐といえば坂上田村麻呂ですが、その田村麻呂は、アテルイを京都に連れていき大和朝廷にあいさつをさせるつもりでしたが、結局は斬首されてしまいます。

このあたりのことは、京都の清水寺にある「阿弖流為 母禮之碑」にくわしく書かれていますので、清水寺に行かれた時にぜひお読みください。

そして、この章では古代尺についても書かれていて、なぜ中国古代の首都は北緯34度線上に並ぶのか、についても解説されています。

平田篤胤が江戸時代に見つけた「紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」と「瑠璃尺」が、ひとつは聖徳太子、もう一つは平将門の娘が所持していたということにも触れています。

「紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」は東京国立博物館の収蔵品であり、「瑠璃尺」は九州国立博物館の開館記念特別展「美の国日本」に出陳されたようです。

第2章 西門ー対馬

対馬という場所が、朝鮮半島に近く、西の守りの要であることは誰しも納得ですが、この章では亀卜に関することがらがまとめられているといっていいでしょう。

歴史的には、鹿の骨をつかう鹿卜のほうが古く、亀卜は新しく導入された占いの方法であるのだそうです。
亀の甲羅を使って占うものが亀卜ですが、そのやり方などについて、本書を読んで初めてしりました。

そして、天皇即位後の大嘗祭でも亀卜が行われているという事実も!
今上天皇の退位が迫っている今、なんとタイムリーな情報でしょうか。
しかも、大嘗祭で使われる亀卜用の亀は、アオウミガメなのです。

アカウミガメからアオウミガメに変わった理由などは、第3章に詳しいのですが、それよりも何よりも驚くのは、対馬には亀卜師が存在していて、今も亀卜の伝統を守る努力をしているという事実です。

ウミガメを捕獲することができなくなっているため、その伝統は本来の形とは異なっていますが、亀卜師が今も存在することに驚きました。



第3章 東門ー小笠原

小笠原諸島の父島は、現在でもフェリーで丸1日かかる場所です。
その小笠原諸島の歴史をひもとき、明治政府が日本固有の領土として宣言した場所が小笠原であった、と解説するのがこの章です。

世界で小笠原でのみ、地上にあるボニナイトという鉱物は、海中の火山が産出する安山岩の一種です。
小笠原諸島が、かつては海底火山であり、それが隆起した島であることを端的に物語るのがボニナイトという鉱物の存在です。

江戸時代には、ペリーが中継地として考えたという小笠原ですが、シャーマンと思われるマルケサス島の全身を青い入れ墨で覆った男と出会ったことから、この地を領有しなかったのではないか、という推論を展開しています。

それだけ神秘の島であるということなのですが、その一例がボニナイト砂が緑に輝く浜であったり、グリーンペペと呼ばれる夜光茸が光る森であったり。

しかも、ペリーはこの聖地のへそに大砲の玉を置き、日本人は貞頼神社(小笠原貞頼は小笠原諸島を発見したとされる人物)を建立したという、できすぎの話まで登場します。

そして、亀卜で使われるウミガメがアオウミガメになった理由が、実は日本の領土の証明に一役買っているのではないか、とさえ論じられているのです。

この章を読むと、明日にでも父島に行きたくなること間違いありません。




第4章 南門ー沖縄

この章では、為朝岩(ためともいわ)の物語が秀逸です。

八幡太郎為朝は、乱暴狼藉をはたらき、伊豆大島に流されるのですが、ここで島の王となり、その後、小笠原諸島を経て沖縄にたどり着いたという伝承が残されているのだそうです。

その為朝の名を冠した岩が、浦添城の跡に残されており、その岩からは、久高島の方角からのぼる太陽を見ることができるとあります。



沖縄にはノロと呼ばれる巫女の伝統が残され、祈りの場所などが残された、神秘の島。
古代日本の幻影が残る場所にふさわしいニライカナイ伝説など、沖縄の章はページ数が少ないですが、読みごたえがあります。


どの章を読んでも、その場に行ってみたくなる内容です。
本書はトラベルガイドブックとしてもすぐれていて、もっと読まれていておかしくないと思います。


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